大事な思い出が全部消された!!思い出を消された慰謝料もらえますか?
くみさんには、もうすぐ1歳になる可愛い娘、さきちゃんがいます。
さきちゃんは、くみさん夫婦にとって初めての子どもで、とても大切に可愛がって育てています。
生まれたばかりの赤ちゃんの頃から、可愛らしい表情やしぐさをたくさん写真や動画に撮っており、ほぼ毎日さきちゃんを撮影するほどの勢いでした。
それだけたくさん写真データや動画データがあると、当然PC内にはデータがおさまりきらないので、くみさんは外付けのハードディスクを購入して、そこにさきちゃんのデータを保存するようにしています。
勿論、ハードディスクに何らかの故障が起こって大切な写真や動画データが消えてしまう可能性もあるので、くみさんは半年に一度、まとめてハードディスクのデータをDVDにうつすことにしていました。
DVDにデータをしっかりと焼いておけば、ハードディスクのバックアップになるからです。
さきちゃんの生後半年のお祝の時にも、しっかりとDVDへのバックアップ作業を行い、くみさんは大切なデータ管理もバッチリ!と安心していました。
それから月日がたち、もうすぐさきちゃんの1歳のお誕生日!というある日に、自宅にママ友のちえさんが遊びに来たのです。
このママ友は近所の公園でお友達になった人で、さきちゃんと同い歳の、はなちゃんという娘さんがいます。
同じ年の子どもがいて家も近所同士ということで仲良くなり、今日初めて自宅に招いて遊ぶことになったのです。
ママ友同士の遊ぶ約束ですから、必然的に子どもも一緒です。
ちえさんには、はなちゃんの他に幼稚園の年長さんである息子さん、たつきくんがいます。
事前にたつきくんの存在も知っていたくみさんは、『家にお邪魔する時、たつきも一緒にいいかな??』という
ちえさんに、快く『勿論!一緒に遊びにきて!!』と答えました。
そして…事件が起こってしまったのです。
パソコンスペースには、きちんとベビーゲートまでしていたのに?!
自宅に遊びにきてくれたちえさん家族。
さきちゃんとはなちゃんは、もうじき1歳になるという年齢のため、2人ともまだ掴まり立ちか、よちよち歩きがメインといったところです。
大人組はお茶をのみ、二人の娘さんたちが仲良く遊んでいるのを見守りながらおしゃべりをしていました。
それに退屈したのはたつきくんです。
幼稚園の年少さんという、ワンパク盛りのたつきくんにとって、まだ小さな妹達と遊ぶのも退屈だし、大人たちはおしゃべりに夢中です。
退屈したたつきくんは、初めてきた家のなかを物珍しげに探検して回りました。
とは言っても、勝手に違う部屋に行ってしまうというようなものではなく、広めのリビングに置いてある棚や、壁に飾ってある写真等を見て回るといった可愛いものでした。
その大人しい様子を見ていたため、くみさんも特に心配していませんでした。
ふと、ポットのお茶が空っぽであることに気付いたくみさんが
「ちょっとお茶淹れてくるね。」とキッチンへ向かいました。
そしてほどなく…
「ちょっと!たつき、やめなさい!!!」
ちえさんの怒鳴り声とほぼ同時に、ガチャーーーン!!と大きな音が聞こえてきたのです!
びっくりしたくみさんが、慌ててリビングに戻ると、
たつきくんが、ベビーゲートで区切っていたパソコンスペースへと入り込んでいるのが目にはいりました。
そして、たつきくんの足元には…
さきちゃんの、大切な写真や動画データがはいったハードディスクがあったのです!!!
「あ!!」
思わず大きな声を出してしまったくみさん。慌てて
「た、たつきくん、大丈夫だった??怪我はしなかった??」
そう心声かけはしたものの、ぱっと見、たつきくんには全く怪我はなさそうです。
それよりもむしろ、机から落下してしまったハードディスクのほうが心配です。
くみさんは内心、大切なハードディスクが壊れていないか、冷や冷やしていました。
「もう!ごめんねー、くみさん。
たつきが勝手にベビーゲート開けて、パソコンのコード引っ張っちゃったの…」
ちえさんは申し訳なさそうに、そう言いました。
「う、うん…仕方ないよ。とにかく、たつきくんに怪我がなくてよかったよ。」
くみさんは、自分の娘がパソコンスペースのほうに歩いていって、パソコンやハードディスクを落として壊したりしないよう、ベビーゲートでしっかりとガードしていました。
しかし、幼稚園児のたつきくんにとっては、このベビーゲートも開けてしまうことができたようです。
くみさんがキッチンに行っていたとはいえ、母親であるちえさんが、たつきくんをしっかりと見てくれていればよかったのですが…
勿論、ハードディスクを床に落としてしまったたつきくんに悪気があったわけではないので、怒るわけにもいかず…くみさんは曖昧な苦笑いしか返せませんでした。
「ごめんね、これパソコンの機械だよね??壊れてたりしたらどうしよう…
「う、うん。ハードディスクだから…写真データが消えちゃってないか心配だな…」
「本当にごめんね!壊れてたらちゃんと弁償するから、言ってね!」
「う、うん、ありがとう。」
その後、再びお茶やおしゃべりをはじめましたが、くみさんはハードディスクが壊れていないか、気が気ではなかったのです。
結局、ちえさん達が帰ってからすぐに、ハードディスクの確認をしたくみさんでしたが…
残念ながら、落下の衝撃でハードディスクは壊れてしまっていたようでした。
いくら電源をいれても、パソコンにつないでも、ハードディスクが認識されなくなってしまったのです。
前回、ハードディスクのバックアップをとったのはさきちゃんが生後6ヶ月の時ですから、その時から誕生日直前である今日までのデータ、ほぼ半年分が全て消えてしまったことになります。
「そんな…さきの生後6ヶ月以降のデータが全部消えちゃったの…??」
くみさんは、ショックで呆然としました。
これまでたくさんとってきた、可愛い娘の写真や動画が全て消えてしまったなんて…とても悲しくて、悔しくてたまりません。
ハードディスクそのものはネットショップで購入したものですので、買い直そうと思えば簡単に手にはいります。
ですが、これはそう単純な問題ではありません。
くみさんにとって、あのハードディスクは、大切な思い出そのものなのです。
「いくら何でもひどすぎる!!私はきちんとベビーゲートまで設置してたのに!!!無理やり入ってきて壊すなんて…さきの思い出はどうなるの!?」
たつきくんの親であるちえさんに、大切な思い出を壊された責任をとってもらうことはできるのでしょうか?
自分にとっては大切な宝物でも、他人にとっては『販売価格』以上の価値は無し!?
さて、今回のケースについて、法的な観点から見ていきましょう。
まず、ハードディスクが壊れてしまったことについて、これはたつきくんの親であるちえさんに責任があります。
くみさんは、ハードディスクが簡単に壊されたりしないよう、しっかりとベビーゲートを設置していました。
たつきくんは、そのベビーゲートを自分で開けてパソコンスペースにはいり、コードを引っ張ってハードディスクを落下させてしまったのです。
同じ部屋にいたちえさんが、自分の息子をしっかりと見ていたら、こんなことにはならなかったはずですよね?
民法709条では、『損害賠償』について以下のように規定しています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
今回のケースの場合、ちえさんは『ハードディスクの代金』を弁償することになります。
しかしながら、くみさんにとっては『大切な思い出』のたっぷりつまったハードディスク。単に『ハードディスクそのものの代金』だけを支払ってもらったところで、とても納得ができません。
大切な思い出を失ってしまった『慰謝料』を請求できないのか?
精神的損害の賠償。不法行為のほかに債務不履行についても認められる。生命,身体,自由,名誉などの侵害に対する感情の慰謝が最も多い(民法710,711条)。
このように、確かに法律上『慰謝料』という概念は存在します。くみさんにとっては、大切な思い出が壊されてしまったということは『大きな精神的損害を受けた』ということができます。
しかし、残念ながら『物が壊された』というケースで『慰謝料』をとろうと思っても、かなり難しいです。
法律上、物に対する慰謝料については、基本的には認められていません。なぜなら、物については、財産的損害が賠償されることにより、慰謝もされたとみなされているからです。
慰謝料が認められるためには、財産的損害の賠償では足りないほどの精神的な損害を受けた等、特別な事情が必要なのです。この特別な事情については、事実上ほとんど認められないのが実情です。
くみさんにとってどんなに大切な思い出が詰まったものであっても、法に照らして考えるとあくまで単なる『物』でしかないので、基本的にその商品代金以上に価値のあるものとは認められないのです。
『自分のとっての宝物』が、第三者にとってただの『物』である、と思われてしまうのはとても悲しいことですが、『自分にとってどれだけ価値のなるものなのか?』というのは、あくまで主観でしかなく、それを客観的に示すことはできないので、これはある意味で仕方のないことなのです。
結局、くみさんはちえさんから慰謝料をもらうことは諦めました。
法律的に見ても慰謝料がとれるかどうかは非常に難しいし、しかもママ友と慰謝料のやりとりまでしたとなると、ご近所からも目も気になってしまいます。
ちえさんには、ハードディスクが壊れて写真や動画データが全て消えてしまったことを正直に話し、その上で、ちえさんから渡されたハードディスクの代金だけを受け取りました。
また、ハードディスク復旧業者に依頼することも考えましたが、料金があまりにも高額だったため泣くなく諦めました。
消えてしまったデータは、これまでおじいちゃんやおばあちゃんに頻繁にメールやLINEで送っていた写真や動画データをもらうことで、全部とはいかないまでも、かなりの数を回収することができました。
とても悲しく残念なことではありますが、くみさんは、これで今回の件は終わりとしました。
今回のように、『思い出』に関わる品を壊されてしまった場合、実は被害者側が我慢を強いられるケースが多いのです。
くみさんの場合、『娘の写真や動画データ』でしたが、これが『形見の品』といったものであった場合も、やはり法的には『物品相当の値段』までしか認められなかったというケースがあります。
例えお金をもらったとしても、形見の品などは二度と手に入らない、とても大切なものです。
出来る限り、壊される可能性のある場所に保管しないようにする等、自己防衛をしましょう!!
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