「お世話になった覚えもないのに!!」亡くなった叔父さんに借金が!何で私が払わなきゃいけないの?!

あきこさんは、今年50歳になる専業主婦で、旦那さん、大学生の娘さんと3人家族です。

家族3人、仲良く幸せに暮らしていましたが、ある日突然、あきこさんは大きなトラブルに巻き込まれてしまったのです!!

きっかけは、あきこさんの叔父、山田 いちろうさんが亡くなったことからはじまりました。

山田 いちろうさんは、あきこさんの父、じろうさんのお兄さんです。

いちろうさんとじろうさんは、2人兄弟でした。

あきこさんは小さい頃、父の実家に遊びに行った時、いちろう叔父さんに何回か会ったことがありましたが、

いちろう叔父さんは子どもにちっとも優しくしてくれない怖い人だったので、幼かった頃のあきこさんが近付くことはほとんどありませんでした。

子どもの頃からその程度の関わりしかなかったので、勿論、あきこさんが大人になってからもずっと接触はありません。

しかも、2年前にあきこさんの父、じろうさんは病気で亡くなってしまったです。

元々、いちろう叔父さんと父、じろうさんは兄弟仲が悪く、そのせいもあって全く交流のなかったあきこさんにとって、父であるじろうさんが亡くなった時点で、いちろう叔父さんとの縁は切れたようなものだと思っていました。

突然電話が・・・・

ところが…ある日突然、あきこさんの元に『山田 いちろうさんがお亡くなりになりました。』と警察から電話がきたのです!!

もう何十年も会っていなかったいちろう叔父さん。

しかし警察は、独身で恋人もおらず、ずっと一人暮らしだったいちろう叔父さんの身柄の引き取り先として、親族であるあきこさんを見つけ出したのです。

既に、いちろう叔父さんの両親(あきこさんにとっての祖父母)。

そして、あきこさんの両親は亡くなっており(あきこさんの母も、5年前に病死)、確かにいちろう叔父さんの身柄を引き受けるのはあきこさんしかいない状態(あきこさんは一人っ子)です。

でも、元々ほとんど交流がなく、しかも幼い頃の記憶と言えば『ちょっと怖い叔父さん』というイメージしかなかったあきこさんです。

お葬式の手配から、いちろう叔父さんの住んでいた賃貸アパートを引き払う手続きまで、何から何まで全てやらなくてはいけないというのは、何だか納得がいきませんでした。

『ほとんど他人みたいなものなのに…何で私が全部やらないといけないのかしら…』

そう不満には思うものの、やはり大事な父の、実の兄弟。

最期くらいきちんと見送ってあげようと、あきこさんは諸々の手続きに奔走しました。

そして、ようやくお葬式や賃貸アパートの引き払いまで終わり、ほっと胸をなでおろしたのです。

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『これで、ようやく全部終わりだわ。大変だったけど、無事終わって良かった…』

そんな風に安堵していたあきこさんに、更にとんでもない電話がかかってきたのです!!

「借金があったなんて、聞いてない!」いくら親族だからって…私が払う義務なんて無いでしょ?!

ある日、自宅にかかってきた電話を何気なくとったあきこさん。

「もしもし、高橋 あきこさん。あなた、山田 いちろうさんのご親戚ですよね?」

「え??えぇ、確かに山田 いちろうは私の叔父ですけど…何のご用でしょうか。」

既にお葬式から数ヶ月が経っているのに、また、いちろう叔父さんのことで電話がかかってくるなんて…あきこさんはビックリしてしまいました。

「あのね、山田 いちろうさんがこの前亡くなったじゃないんですか?うちはね、いちろうさんにお金を貸してたんですよー。」

「えっ?お、お金、ですか??」

あきこさんは、何だかとても嫌な予感がしました。

電話口の男性はちょっと馴れ馴れしい話し方で、どんどん声が大きくなっていきます。

「そう!お金!!しかも大金だよ、400万円!!お金返さないままおたくのおじさんが亡くなっちゃったからさー、うちはものすごーく困ってるんだよね!!」

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「ちょ、ちょっと待ってください!そんなこと、私に言われても!!!」

「あぁ?!だって、おたく山田いちろうさんの姪っ子さんでしょ??自分の親族が借りた金なんだから、あんたに責任とってもらわないと!だって、他に誰もいないでしょ?!」

「だ、だからって、いきなり400万円払えなんて、そんな…」

「貸した金を返すのは、人として当然のことですよー??あなたが返せないなら、旦那さんに金だしてもらうよ!」

「ちょっと!主人は関係ないでしょ?!叔父さんとは赤の他人なのよ!!」

「だからー、こうして姪っ子の奥さんに言ってるんでしょ??これまでおたくのおじさんが全然返してくれなくて、散々返済待ってたんだから。

そうだな、2週間後には全額返してもらうよ!!2週間後に、奥さんのおうちに取りに行くから。現金用意しておいてね。」

「ちょ、ちょっと待って!!」

思わずあきこさんも電話口に向かって大声をだしてしまいました。

しかし、男性は言いたいことだけ言ってさっさと電話を切ってしまったのです。

「どうしよう…いきなり400万円の借金だなんて…」

途方にくれてしまったあきこさん。

確かに生前、父じろうさんから

『いちろう叔父さんはすぐお金を使ってしまうし、すぐ人からお金を借りようとする。』という話を聞いていました。

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父がそんな心配をしていた人物だったので、400万円の借金があったとしても、あながち嘘ではないような気がします。

「で、でも…もし本当にいちろう叔父さんが400万円の借金をしていたとしても、借りた本人でも無い私が返さなきゃいけないなんて…そんな理不尽なことある?!」

まさか、何十年も会っていなかった叔父の、借金の後始末までさせられることになるとは…

あきこさんは、頭が真っ白になってしまいました。

「身内の借金の責任は、身内がとる!?」親族だったら、借金を肩代わりしてあげないといけないの!?

さて、では今回のケースについて、詳しく見ていきましょう。

あきこさんは、いちろう叔父さんが生前借金していたことすら知らされておらず、勿論、借金の連帯保証人等になっていたわけでもありません。

このような状態で、いちろう叔父さんの借金を、姪であるあきこさんが払う『義務』はあるのでしょうか?

貸金業法 (取立て行為の規制)
第二十一条  貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

七  債務者等以外の者に対し、債務者等に代わつて債務を弁済することを要求すること。

「貸金業法」より 

このように、『賃金業法』という法律では『親族だから、身内だから』という理由で、借金を返済する義務は負いません。

つまり、たとえ親族が借金をしていたとしても、保証人になっていない場合、他の親族に支払い義務はないのです。

賃金業者側としては『借金した本人が返せないなら、身内が責任をとれ』と考えるのも無理はありませんが、この返済請求には、実は何の法的根拠も無いのです。

そのことを知らない身内の人間は『身内の借金だから払うしかない』と思い込んで、言われるがままに借金を支払ってしまいますが、

実はこれこそが、悪徳な金融業者の手口なのです!

最初は、法律上、借金の支払い義務がなかったものでも、一度『自分が支払わなければならない』と思って返済をはじめてしまうと、その当人は、借金の支払い義務を『追認』した(後から、自分が借金を支払うべき立場であると認めた)ことになってしまうのです。

ですから、もし、親族の借金返済の督促をされた場合は『最初からきっぱりと断ること』が何よりも大切となります。

『相続ってお金が土地がもらえるものでしょ??』ちょっと待って!いい事ばかりじゃありません!借金が相続されることも!?

さて、通常の『親族の借金』に関する考え方は、上記の通りで問題無いのですが、

今回のあきこさんのケースの場合は、少し条件が変わっています。

それは、借金した本人であるいちろう叔父さんが『死亡』し、かつ、いちろう叔父さんには配偶者も子どももいなかった、ということです。

更に、いちろう叔父さんの両親、そして実の兄弟(あきこさんの父、じろうさん)も既に亡くなっています。

このため、いちろう叔父さんが亡くなった際の『相続』につき、姪であるあきこさんが代襲相続人に該当することになってしまうのです。

代襲相続
推定相続人である被相続人の子または兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡,廃除,相続欠格により相続権を失ったときに,その者の子がその者に代って相続すること (民法 887条2項,889条2項) 。

「代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは – コトバンク」より 

一般的に相続の優先順位は下記の通りとなります。


  1. 叔父さんの配偶者、子、孫
  2. 叔父さんの実両親
  3. 叔父さんの兄弟姉妹

叔父さんの場合、1は存在せず、2・3は既に亡くなっている状態です。

このため、相続の権利が、3の子どもにあたる、あきこさんにまわってくるのです。

『相続』といえば聞こえがいいのですが、実は、相続には『プラスの相続』と『マイナスの相続』があります。

プラスの相続とは勿論、皆さんがイメージするような家、土地、現金等、『金銭的にプラスになるもの』です。

そして、マイナスの相続とは、今回のいちろう叔父さんの借金のような『金銭的にマイナスになるもの』です。

一口に『相続』と言っても、いざ相続をしてみたら借金まみれのマイナスの相続だった、という話もよく聞きます。

あきこさんの場合、いちろう叔父さんの代襲相続人という立場になってしまうため、『借金』という、引き継ぎたくないものまで相続の対象となっているのです。

このままでは、あきこさんは法律上、正式に『いちろう叔父さんがした借金を返さなければいけない立場』になってしまいます!!

では、自分がしたわけでもない借金を相続してしまいそうになったら、一体どうすればいいのでしょう?

「借金なんて相続したくない…」そんなときは相続放棄!!!

あきこさんは、知らぬうちに『いちろう叔父さんの遺産の代襲相続人』となっていたのです。

しかし、『遺産』と言っても、いちろう叔父さんが残したのは『借金』だけでした…

何十年も顔すら見ていなかったのに、ある日突然、こんなものを残されては、あきこさんは困ってしまいますよね。

このような場合、『相続放棄』というものが最も有効な手段となります。

相続放棄(そうぞくほうき)とは、民法上の概念、用語の一つであり、相続人が遺産の相続を放棄すること。
被相続人の負債が多いなど相続に魅力が感じられないケースや、家業の経営を安定させるために後継者以外の兄弟姉妹が相続を辞退するときなどに使われる。
なお、3か月以内に限定承認又は相続放棄のどちらかを選択しなかった相続人は(家庭裁判所に期間の伸長を申し出なければ)単純承認とみなされる(民法915条1項、921条2号)。

「相続放棄 – Wikipedia」より 

なお、被相続人が死亡して3ヶ月経過していても、前順位者全員の放棄が申述受理されたこと、すなわち自己が相続人になったことを知ったときから起算する。
「相続放棄 – Wikipedia」より

このように、相続放棄をすることで、『プラスの相続』と『マイナスの相続』全てを手放すことができるのです。

あきこさんのケースの場合、いちろう叔父さんは元から『プラスの相続』がほとんど無い状態だったので、相続するメリットは一切なく、相続放棄が一番適切な対処法となるのです。

あの電話の後、あきこさんは『400万円の借金』が怖くなって、慌てて弁護士を探しました。

弁護士さんはあきこさんの話を丁寧に聞いてくれ、『相続放棄』の手続きをとる方向で話をまとめてくれたのです。

そして、電話から2週間後、本当にあきこさんの家まで来た貸金業者に、弁護士さんから直接、その旨を伝えてくれたのです。

貸金業者側も、あの手この手で何とかあきこさんに支払いをさせようとはたらきかけてきましたが、その都度、弁護士さんがしっかりと守ってくれました。

こうして、ゴタゴタはあったものの、何とか無事『相続放棄』の手続きが完了したのです。

こうして、ようやくあきこさんは平穏な日々を取り戻しました。

多額の借金があり『相続放棄』する場合は、必ず親族全員で!!

今回のケースのように、『多額の借金があり、相続してもマイナスにしかならない』という場合、

『相続放棄』が何よりも有効な手段となります。しかし、相続放棄をする際は、十分注意をしなければいけません。

先ほど『相続の優先順位』についてご説明したと思いますが、

『相続放棄』をすると、相続権がこの優先順位に従って、どんどん下の人へとうつっていくのです。


  1. 被相続人(死亡した人)の配偶者、子、孫
  2. 被相続人(死亡した人)の実両親
  3. 被相続人(死亡した人)の兄弟姉妹

つまり、例えば1.2.3の該当者が全員存命の場合、

『1被相続人(死亡した人)の配偶者、子、孫』だけが、借金だらけの相続を放棄したとしても、次の『2被相続人(死亡した人)の実両親』に相続権が移行し、

今度は1の人たちが借金の支払い義務を負うことになってしまいます。

親族一同が借金の支払いから逃れるためには、から3までの全ての関係者が、一斉に『相続放棄』をする必要があるのです。

今回の場合、あきこさんは、『3被相続人(死亡した人)の兄弟姉妹』にあたる、いちろう叔父さんの『兄弟』である父、じろうさんの代襲相続人になったので、あきこさんが『相続放棄』の手続きをとる必要があったのです。

そして、あきこさんからその先の相続は無いので、ここで必要な手続きは全て完了となったわけですね。

ある日突然、相続により多額の借金を背負わされそうになった場合、自分だけが相続放棄をしても、その次の相続人が多額の借金を負うことになってしまいます。

親族皆が困らないように、こうした事情で相続放棄をする場合は、必ず親族全員で話しあい、必要な対策をとるようにしましょう!

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